KJ 2022.4

リードテキスト一部公開

「普通」であることと、「特別」であることの先に、

日々の暮らしのなかで、ある人が当たり前だと思っていることが、わたしたちには特別だと思えたり、あるいはその逆に、わたしたちが普通だと思うことが、誰かにとっては特別なことに感じられたりする。今回、特集を組んでもらうにあたって、4年間、試行錯誤しながら設計してきたプロジェクトをまとめて振り返ってみると、ひとつひとつのプロジェクトは、わたしたちとクライアントの間にある「普通」と「特別」のすれ違いをどう建築にしていくのか、その右往左往の結果であったのかもしれない。「普通」と「特別」は人によって違う、なんてことは今のご時世、当たり前のことなのだろう。だけど、当たり前のことを改めて考えてみたいのだ。
「普通」と「特別」の関係。例えば、建築における構成は、プログラムにふさわしいカタチと、その地域や場所にふさわしいカタチのせめぎ合いの結果、生まれる。プログラムにふさわしいカタチは、一般的に普通と考えられているカタチで、地域や場所にふさわしいカタチは、一般的には特別だと考えられているカタチなのだろう。でもクライアントからすれば、自分達の習慣から生まれてくるカタチの方が普通で、一般的に考えられているカタチは効率は良さそうに思えるけど、なんだか身体が馴染まない気がするのかもしれない。
わたしたちが「地域の習慣」や「地域の特性」と呼んでいるものは、こうした人と人の間にある「普通」と「特別」のすれ違いを、別のことばで言い表したものではないのだろうか。「普通」と「特別」の認識のずれを「地域の特性」という一言で片付けてしまって、狡猾に地域特性の一部を借りて設計に取り入れるのもいいのだろうけど、果たしてそこに、リアリティはあるのだろうか。
特集 工藤浩平建築設計事務所東松山の家/プラス薬局みさと店/J邸/城南の老人ホーム/生田の園庭/初台の店舗改修/鳥海邸/方南町の家/佐竹邸/楢山の別邸
発行日/2022年3月15日I S B N/978-4-904285-88-6サイズ/A4版変形88ページ定 価/1,650円(本体1,500円)